実証分析の論文を書くためのタスクリスト
研究作業の効率化にいつも頭を悩ませています。
しばらくは、以下の手順に従って進めてみようと思っています。
興味がある方向けに、それぞれのタスクリストの詳細についても説明しようと思います。各見出しがリンクになりますのでそちらをご覧ください。
- 研究の目的の明確化
- リサーチクエッションが経済学の理論的な枠組みとどのように関連しているかを理解する
- リサーチクエッションを経済学の理論に基づいて定義する
- 必要なデータの種類とソースの特定
- 理論的な予測に基づいて分析モデルを選択する
- 研究デザインのドキュメンテーション
- 因果関係を概観するグラフ作成の勉強と練習
- 政策の特性の理解とドキュメンテーション
- 因果効果を分析するための戦略の理解と計画
- 政策の文脈や影響を理解するための資料収集
- 政策の処置群と対照群の理解
- 先行研究調査の計画
- 先行研究調査の実施
- 関連文献の読解と要約
- 先行研究の知見を用いた研究デザインの改善
- データソースからのデータ取得
- データの整形
- データのクリーニング(例:外れ値の処理、不適切なデータの削除)
- データの保管と管理
- 推定前の散布図などのグラフ作成
- グラフから得られる洞察を用いた識別戦略の見直し
7.結果の報告:
- 結果を視覚的に伝えるための美しいグラフの作成
- 分析結果の要約
- 論文の執筆(例:導入部、方法論、結果、結論)
8.レビューと改善:
- ピアレビューのリクエストと管理
- レビューに基づく分析の再実行や修正
- 論文の修正と最終化
- 公開前の最終チェックと承認
大学院進学のための研究計画書の書き方(3)
研究計画書の構造
- タイトル
- 研究の概要
- 研究の背景・目的
- 先行研究(研究の背景や研究の貢献に書くことも)
- 研究の貢献
- 研究の枠組み(理論的予想など)
- 分析方法
- 期待される成果
ここから研究計画書の本文になります。
全体を通じたルールとして伝えておきたいのは、
概要と同じように基本的にはどの段落も4文から構成されている
ということです。
多くの場合以下の4文になります。
・トピックセンテンス(その段落のメッセージ)
・問題の確認
・問題の解決方法
・解決方法に対する評価もしくは方法の詳細
(スウェイルズ、フィーク、1998)
そして、もっとも重要なことですが、トピックセンテンスと関連のない話題は、同じパラグラフの中は書いてはいけません。
一つの段落のメッセージは一つと決まっているからです。
さて、本文の書き方に進みましょう。
3.研究の背景・目的
5.研究の貢献
いきなりですが、ここが研究計画書の出来不出来を左右する最も重要なポイントです。
もし研究計画書が1000文字程度だった場合、背景、目的、そして場合によっては貢献も同じ段落に書くことになるでしょう。その場合は、3文目までは、研究の概要(書き方(2))と同じ内容でいいと思います。
1文目:目的
2文目:あつかう問題(背景:研究の意義)
3文目:分析方法
となっています。
多くの人は背景から書き始めたいと考えるかもしれません。
文章の書き方に正解はないので、どちらでもいいかもしれませんが、個人的には
短い文章の場合は目的を先頭にすべきだと思います。
目的はResearch questionについて
背景はResearch questionの位置づけ、問う意義について
説明する箇所ですので、より重要な目的を先に書く方が良いのです。
パラグラフリーディングをする人は1文目しか読まないという理由もあります。
4文目は研究の貢献を書くのがいいでしょう。
「5.研究の貢献」と「8.期待される成果」は同じようなことを書くことになるのではないかという気がしてしまいます。個人的には、次のように考えています。
Research questionとは、検証されるべき理論的な予想をもとにたてられおり、
研究の貢献とは、理論的な予想に対する検証結果としてのAnswerであり、
期待される成果とは、その理論的なAnswerをもとに提示される政策(問題への処方箋)のことです。(もちろん状況次第なですが、このブログを読むあなたはひとまずこれで書きましょう)
まず、理論的予想ですが、これは通常は先行研究をたくさん読んでそれに従います。自分でゼロから考えることは通常はしません。その方が読者が理解しやすいですし、多くの問題にはすでに何らかの理論があります。新しい理論をたてたいのであれば、既存の理論的な考え方を拡張するのがよさそうです。
書き方(1)で決めたテーマで理論を考えるとすれば、
・誘拐に失敗した際に支払うコストは非常に高いので通常は誘拐をしない
・ただし、農業収入の不意の減少に対処できなかった場合に失うものはより多い
・このような時に、農民がやむを得ず誘拐をする
を説明できるものでしょうか。
例えば、「人は損得を考えて犯罪をする」はどうでしょうか。この理論は先進国でもしばしば観察される現象として様々な分野で議論されています。
そこで、4文目の文章としては、
「この分析の結果から、短期的にどれほど貧しくなると誘拐をするようになるのかを明らかにすることができる。」
などが自然に導かれます。
ちなみに、1文目から3文目は以下の通りでした。
1文目:「本研究の目的は、〇〇国の???年から???年のデータを用いて、天候不順による収入の低下が誘拐を増やすことを調べることである。」
2文目:「外国人を対象とした誘拐はの増加は、外国の資金流入に負の影響を与えるため、途上国政府も非常に頭を悩ませている問題であるが、どのような時にどのような理由で誘拐が頻発するようになるのかについて、信頼性の高い証拠がない。」
3文目:「そこで、天候不順による予測できない収入の減少が地域ごとに異なるタイミングに発生していることに着目し、操作変数法によって誘拐件数増加との関係を調べる。」
2000字以上あるのであれば、背景、目的、貢献をそれぞれ別の段落にすべきです。Research question、それを問う意義、そして問のAnswerはどれも研究の根幹をなすものだからです。というよりもこの3つが研究(計画)の基礎ですから、それぞれを丁寧に議論すれば研究計画の厚みがぐっと増します。
その(4)へつづく
大学院進学のための研究計画書の書き方(2)
大学院進学のための研究計画書の書き方(1)の続き
研究計画書の構造
- タイトル
- 研究の概要
- 研究の背景・目的
- 先行研究(研究の背景や研究の貢献に書くことも)
- 研究の貢献
- 研究の枠組み(理論的予想など)
- 分析方法
- 期待される成果
研究の概要
研究の概要もタイトルと同じように他の箇所が出来上がってから書く場所です。
ただ、書く内容はともかくともかくとして、構造はほとんど決まっていますので、私が思う構造を説明します。概要が必要となるのは2000文字以上の研究計画書の時だと思いますので、その構造の概要になります。
概要は最低限以下の4つの文章からなります。
一文目:研究がどの地域・時期を対象としており、どんなresearch questionなのかを書きます。
例えば、以下のような文章です。
「本研究は、〇〇国の???年から???年のデータを用いて、(原因)が(結果に与える影響)を調べる。」
書き方(1)で決めたテーマであれば次のような文章でしょうか。
「本研究の目的は、〇〇国の???年から???年のデータを用いて、天候不順による収入の低下が誘拐を増やすことを調べることである。」
ここは「何をするのか?」に関するところですので、一番書きやすいところです。
二文目:研究の位置づけに関する説明をします。
これまでどのような研究があり、どこまでわかっており、何がわかっていないのか、そしてこの研究が何を明らかにするのかということを説明します。つまり、この研究計画のresearch questionがどれほど価値があるのかをアピールする場所です。できれば1文で書きます。
書き方(1)で決めたテーマであれば、例えば、
「外国人を対象とした誘拐はの増加は、外国の資金流入に負の影響を与えるため、途上国政府も非常に頭を悩ませている問題であるが、どのような時にどのような理由で誘拐が頻発するようになるのかについて、信頼性の高い証拠がない。」
などでしょうか。このテーマが専門分野の方であれば、もっと良い内容にするところでしょう。
ここは研究の意義を説明する箇所ですので、どれくらい専門分野の勉強をしているのかが表れるところです。
三文目:research questionの検証方法を具体的・簡潔に説明します。
当然、ここはいろいろなパターンがあり得ます。
書き方(1)で決めたテーマであれば、
「そこで、天候不順による予測できない収入の減少が地域ごとに異なるタイミングに発生していることに着目し、操作変数法によって誘拐件数増加との関係を調べる。」
などを書きたいところです。
ちなみに、操作変数法とは分析手法の名前です。この方法を知っている人であれば、収入が内生変数、天候不順を操作変数にして分析するのだなということがわかります。また、一文目でデータの期間を示しているのであれば、単純な操作変数法ではなく「差分の差分法の構造を持つのかな?その場合、staggered didの問題があるかもしれないけれど、どのように対処するのかな?」と思いながら審査員は読むことでしょう。
ここはどれくらい分析方法の勉強しているのかが顕著に表れる箇所です。
四文目:期待される成果
ここは、どのような結果が得られることが期待されており、その成果はだれにとってどのように嬉しいのか、を説明します。社会科学の場合であれば、政策的な貢献が求められますので、どのように政策を実施すればよいかが明らかになる、ということを説明できるのが良いです。
例えば、「農業収入の変動が誘拐のインセンティブを高めていることがあきらかになるのであれば、日本の農協が提供するサービスのような、農業収入の変動を平準化する仕組みが問題を緩和すると類推することができる。」
一般に強い結論とは、強い仮定を必要としますので、分析の結果から強い主張がでてくるとかなり警戒します。ですが、大学院受験のための研究計画ですので、勢いよくこれくらいのことを書いておくのがいいように思います。
この4文で指定よりも長くなってしまうのであれば、各文章の言葉を入れ替えるなどして、文字数の調整をすることで対応しましょう。文章を丸ごと削るのは避けた方がいいと思います。
逆に文章を長くするのであれば、想定される読み手が知りたい情報を加筆します。概学院入試のための研究計画書は、研究の準備として必要なだけでなく、あなたの能力を測るためのものです。相手が高得点をあげやすくなる箇所を増やすのが得策です。
次、書き方(3)
研究室選択の話
修士課程を学部とは異なる大学で過ごしたいと考える人は少なくないと思います。
ここでは、大学院の研究室選びに関して私見を少し述べてみたいと思います。
ちなみに、私が所属する大学は他大学に進学する学生よりも、他大学から進学してい来る学生の方が多いです。そのような大学ですので、大学院進学者の大部分は学部からそのまま大学院に進学する学生です。そういう意味では、学部の時の研究室選択の参考にもなるかもしれません。
そもそも大学院進学を何のためにするのかというこということが研究室を選択する際に結構重要です。
(1)もう少し勉強したい
(2)良い企業に就職したい
(3)博士号を取得したい
などいろいろあると思います。
学生の側にさまざまな理由があるのと同じように大学の研究室も特徴はさまざまです。
それでは、私が所属するような大学の研究室にはどのような特徴があるのでしょうか。
以下の3つの軸から整理してみます。
軸1:年齢と職階(教授・准教授・助教)
軸2:研究スタイル
軸3:人間性
先にこのブログの結論を述べると、自分の目的にあった特徴の研究室を選ぶのが良いということになります。
研究室には特徴によりいくつかのパターンがあるのですが、全パターンに共通して見るべきポイントは、
・過去5年間くらいの間に、個人で、または学生以外の研究者と、研究をしている。(分野による?)
・指導学生の人数が多い
・研究室のHPが更新されている
です。
軸1:年齢と職階
【軸1:パターンA】高齢ではない&職階が高くない(助教)
一般に制度上は、この職階の教員は大学院生の指導をできません。
ですがそれはあくまで名目上のことであり、実質的には指導できることがあります。(なんだそりゃ)
制度上指導できないというのは、それだけ「自分の研究に時間を使うように」というプレッシャーがあるということです。
そのため、自分の研究テーマと関係が弱い研究計画を送ってくる学生の指導はなるべく避けたいという気持ちがあります。
一方で、優秀な大学院生が自分と共同研究をしてくれるなら、いろいろな意味で嬉しいので喜んで受入れてくれることでしょう。
ただし、テニュアトラックの教員はかなり余裕がない場合があるので、その研究室の院生などから注意深く情報収集した方がよいです。
*テニュアトラックとは、決められた期間内で一定以上の業績を上げることで終身雇用(テニュア獲得済)になる立場のこと
学生から見ているとその教員がテニュアトラックかどうかわかりにくいですが、
・助教
・着任後5年以内
の両方を満たしていると、多くの場合でテニュアトラックです。
テニュアトラック中に博士課程の学生を何人も指導している方もいるようですので、
一概に避けるべきというわけでもありません。とにかく注意深く情報収集です。
【軸1:パターンB】 中年&教授ではない(准教授、テニュア獲得済助教も?)
研究大学と呼ばれる大学で中年で准教授になっている教員は
研究だけでなく、教育への貢献も少しずつ求められるようになってきます。
充分な人数の学生を抱えているという状況でなければ、
良い研究計画書(!)さえあれば受け入れてくれる可能性は低くないと思います。
私が見える範囲では、アカハラを嫌う世代ですので、相性さえ悪くなければ、
このタイプの教員の研究室が、一番教育効果が高くなると思われます。
博士課程に進学したい場合もこのパターンは悪くありません。
ただし、分野によっては転出(他の大学に異動)の可能性が低くありません。
このリスクを避ける方法は、教員が転出しにくい、より研究環境の良い大学に進学する以外の方法はなさそうです。
【軸1:パターンC】教授
教授はとにかく忙しいです。
特に国立大学理系は異常に忙しいのではないでしょうか。
うまく研究室を運営することで教育効果を高めている方もおられますが、
平均的にはパターンBに比べると劣ると思います。
(とにかく教育研究以外の仕事が多いのです。)
とはいえ、教育も研究も十分な経験を積まれているでしょうから
意識して避けるほどのこともない気はします。
気にしなければならないのは
第1に、相性
世代的にハラスメントに鈍感な人がいる。どんなに人格的に素晴らしいと私が思っている方でも学生からハラスメント的な言動があるとの噂を聞くことがあります。
第2に、定年までの年数。
多くの場合大丈夫ですが、一番初めに、年齢を確認しておきましょう。
研究室訪問が可能であれば、かるく情報収集をしてみるといいと思います。
【軸1:パターンD】高齢&教授でない
このパターンは一番多様です。
一概に言えることはありません。
この研究室の学生さんに話を聞いてみるのがいいでしょう。
軸2:研究スタイル
【軸2:パターンA】教員は学生のみとたくさん研究する(よくある)
いわゆるブラック研究室はこのパターンです。
が、ブラック研究室でなければ最高の研究室の可能性もあります。
ブラック研究室については調べれば山ほど情報ができますが、
研究室訪問の際に確認すべき項目があるとすれば
・コアタイムが異常に長い
・土曜出勤
・就活をさせない(ゼミ報告優先)
個人的にはどれもとにかくやばいと思います。
・進捗がないと異常に怒られる
・学生同士が異常に仲が良い
もブラック研究室の指標になっているようですが、そうかもしれません。
【軸2:パターンB】個人で研究する、または学生以外とも共同研究する
これは、かなりポジティブなシグナルだと思います。
研究をする際に自分で手を動かしている証拠になるからです。
この先生はとにかく研究プロジェクトなどで忙しいでしょうから、
指導を受けるためには、進学後も
積極的にアポイントメントをとる必要があります。
強い心をもって頑張りましょう。
【軸2:パターンC】学生との共同研究がない(珍しい)
このパターンは二つの可能性があります。
一つは、放置、
もう一つは、学生の研究を指導するけれども学生の業績にしている、
です。
下のパターンだと最高ですね(ただし、めったにいません)。
少し手間がかかりますが、下のパターンを見つける方法は修了生を探すことです。
卒業生が博士号をとってどこかの大学の教員になっているケースがるはずです。
特にそのような元学生さんは院生時代に学術振興会特別研究員を取っており、指導教員が受け入れ教員になっていたりすることが多いと思います。
そのような学生さんが見つからなければ警戒しましょう。
【軸2:パターンD】研究していない(意外?に多い)
研究していない、を見つけるのはそう単純ではありません。
分野によりますが、英語で論文を書くのが標準的な分野の場合に日本語の論文しか書いていなければ、それは研究していないと判断すべきだと思うからです。
その一方で、日本の事例研究が重要な分野であれば、日本語の論文を書くことも重要な貢献になりえます。
見分け方としては、英語の論文を引用しているのであれば、英語で論文を書くべき分野ではないかと思います。
英語で論文を書いているとしても、著者として主たる貢献をしていない場合もあります。
一つの判断方法は、第一著者の論文があるのかです。
なければ論文を一人で書けないかもしれません。
著者の順番は多くの分野で貢献順ですが、例えば、アルファベット順の場合はやや複雑です。
論文が掲載された雑誌のSJRスコアを調べて、どれくらいのスコアの雑誌に単独で論文を掲載できるのかを調べるという方があります。
SJRスコアは少なくとも0.5以上ない場合、研究していないとは言いませんが、修士論文の指導でさえかなり怪しいのではないかと思います。
(インパクトファクターは分野によって数字の意味が異なりますので一般化できる値は存在しません。できると思っている人は、危ない人なので要注意です。)
日本語の論文を書くのが標準的な分野の場合については私はよくわかりません。
が、今後どんどんと衰退する分野が多いのではないかと思いますので、博士課程まで進学するつもりの場合には、そのリスクをとれるかよくよく考えるべきです。
軸3:人間性
結局のところ、教員の人間性がよければ自学自習できるかたはどんどん成長できますし、逆であれば、どんなに優秀でも進学しないほうが良かった、ということもありえます。
ただ、学生さんが教員の人間性を見抜くのは簡単ではありません。
可能な限り、講義を受けたり、ゼミ生・ゼミ以外の学生から情報を集めてみましょう。
博士号を取りたい場合は、博士課程進学者と取得者の数を見るのも重要でしょう。
あと、普通にやるべきだと思うのは、学士課程から研究室を選べる場合、
相性が良くなければ研究室を変更するのは良い選択です。
かなり勇気がいることですが、移籍先の先生とよく相談をすれば、
多くの場合、全く角が立たずに物事が運ぶと思います。
また、教員も人間ですので、家庭の事情で余裕がないということも起こり得ます。
あなた自身が「研究を仕上げる」ことに強い執着をもって、指導教員以外の教員のアドバイスも受けながら研究を日々進めることが一番の保険になるでしょう。
まとめ
修士課程の研究室選択の話をしてきました。
まとめると、
(1)ブラック研究室はなるべく避けること。つまらないから。情報収集必須。
(2)修士課程後進学する場合は、軸3重視。特にコアタイムはないけれども、学生がもれなく修了できている研究室を選ぶこと。就活に全力で取り組みましょう。
(3)博士号を取得したい場合は、軸1軸2軸3すべて重要です。博士課程は指導教員の力なしにはかなり難しいプロセスだからです。就職は自分で頑張りましょう。
良い研究室を選ぶことができても、
あなた自身が研究を進めないなどの問題を抱えていた場合は、
やはり指導教員と良好な関係を築けないかもしれません。
とにかく、自分で研究を進めるということを大前提として、
研究室選びを頑張ってみてください。
大学院進学のための研究計画書の書き方(1)
大学院受験の際には研究計画書の提出を求められます。ここでは、その書き方について私の考えを述べます。
分野によって形式が異なることもあるでしょうから、指導教員から指導を受けられる方は、絶対にそちらを参考にしてください。ここでは、私の学生とか、興味がある方に向けて説明します。
ちなみに、私の専門は、社会科学系の実証研究(統計データを扱う分野)です。
研究計画書が必要になる時
研究計画書は、どのような研究であれ始める前に作成する必要があります。学生だろうと大学教員だろうと研究をする人にはいつでも必要なのです。大学院は研究する人が行くところですから、大学院受験のときに必要な研究計画書というも、研究をはじめる前に作成するものという認識で書く必要がありますし、教員もそのつもりで読むはずです。
研究室によっては、結局、指導教員が与えるテーマで研究することになることもあるでしょう。そうだとしても、自分が研究を始める準備ができる人であることを示すために質の高い研究計画書を作成する必要があります。
研究の例
例を使いならが説明するとわかりやすくなるでしょうから、適当なテーマを作ります。
こんな地図が作れてしまうのか
— Spica (@Kelangdbn) 2021年5月25日
2018年以降に起きたナイジェリアの誘拐事件発生地分布https://t.co/SFIgwsZNPy 2020年の誘拐事件は前年から2倍以上に。 pic.twitter.com/6u2tyMX8iK
たとえば、このツイートをもとに(記事の内容をよまずに)研究計画書の例を決めてみたいと思います。
背景(適当):途上国ではしばしば誘拐が起こる。誘拐が頻発すると危険を避けるために先進国からの観光客やビジネス客が減り、経済的損失が発生する。原因を解明することで、効果的な政策・対策を行うことが経済発展に不可欠。
仮説(適当):誘拐は経済状況が悪化した時に起こる。
研究計画書の構造
- タイトル
- 研究の概要
- 研究の背景・目的
- 先行研究(研究の背景や研究の貢献に書くことも)
- 研究の貢献
- 研究の枠組み(理論的予想など)
- 分析方法
- 期待される成果
研究計画書の構造は決まっており、1000文字程度の計画書であれば、3+5で1段落、6,7,8のそれぞれで1段落の計4段落くらいになるかと思います。この場合であれば、2,4については独立した段落を作らないと思います。もう少し長くなると、2,4を独立させ、research questionに関連する度合いの強い要素を各段落に加筆することになるでしょう。
1.タイトル
実証研究には明らかにしたい仮説があります。この仮説やresearch questionをそのままタイトルにするのが多くの場合で良い方法です。タイトルが仮説やresearch questionだと読み手がどのような文脈の研究なのかを容易に想像できるからです。
例えば、上記の仮説の場合であれば、
・途上国の誘拐は、なぜ起こる?
というのがタイトルになり得ます。ですが、これだけだと、どのようなタイプの研究なのかはっきりしません。仮説を検証するタイプの研究なのか、探索的にいろいろ調べて検証すべき仮説を探すタイプの研究なのか、はたまた研究ですらないのか、はっきりさせられるならタイトルの時点ではっきりさせた方がいいでしょう。
考え方としては、結果(誘拐)とそれを引き起こす原因(経済状況の悪化)の両方をタイトルに加えるとぐっと仮説らしくなります。
・途上国における経済状況の悪化が誘拐を増やすのか
何をやるのか、一気にわかりやすくなりました。さあ、もうひと頑張りしましょう。
頑張る方向性としては、結果もしくは原因の範囲をよりはっきりさせることです。
例として、経済状況の悪化とは何か、という点をよりはっきりさせてみましょう。
・途上国における短期的な経済状況の悪化が誘拐を増やすか。
「短期的な」という言葉を経済状況の前につけてみました。実はこれは因果関係を識別する(はっきりさせる)という分析段階の都合の話なのですが、長期的な経済状況の悪化が誘拐を増やしているかどうかをはっきりと示すのは(たぶん)できません。逆に、はっきりと示せるのであれば、「長期的な」と書くことで「え?どうやるの??すごくない?」という気持ちにさせることができますので、その場合は攻めて良いと思います。
一方で、「短期的」であればいろいろと分析方法を想像できます。そもそも途上国の収入は農業や資源の輸出に依存しており、これらは短期的に大きくばらつくことで悪名高いのです。つまり、短期的とかいてあると「天候不順による農業収入の減少なのか、貿易の都合による収入の減少なのかな?」と思いながら読み始められるのです。
研究計画の書き方を探して、このサイトにたどり着いた方の大部分は、ここまでやるのは難しいのではないか、と思うのではないでしょうか。その理由は研究の位置づけを明確にできているかどうかが関係しています。タイトルは一番最後に書く、と言われることがありますが、この難しさが理由です。
ですから、ひとまず仮のタイトルを決め、ほかの要素を整理した後にまたタイトルに戻ることにして先に進みましょう。
今回はひとまずここまでとします。
次回、書き方(2)
〔読書メモ〕ルワンダ中央銀行総裁日記
EBPMはこのようにすすめなければならないのかと
私の評価:★4.5
『なろう系金融ファンタジー』のPOPを手書きしたらものすごく興味を惹かれる内容になった「実話?」「なろう系フォーマットって優秀なんだな」 - Togetter
という話題につられて、おもわず書店で購入。
途上国中央銀行技術援助計画の一環として独立直後のルワンダの中央銀行総裁となった著者の経済立て直し奮闘記。二重為替相場制度を廃止し、中央銀行の立場から農業振興をした。このほかにもバス会社の運営を軌道に乗せたり、ルワンダ商人を育成して外国人商人と競合できるようにしたり、とたった6年間の期間で本当にそれだけのことができるものなのかと驚く内容ばかり。たしかに、なろう系金融ファンタジーである。
私にマクロ経済学の素養がないことが原因だと思うが、著者の意思決定の根拠を理解しきれないことが多く、正直話が全く入ってこない箇所はそれなりにある。ただ、そうだとしても、物語全体のストーリーを理解するうえでは何の問題もない。
この本から学んだ重要なことは、(1)ステークホルダーとの向き合いかた、(2)EBPMは必要とされる場所で行う、である。
(1)ステークホルダーとの向き合い方は、EBPMで何よりも重要なことであろう。政策を立案・改善するためにはステークホルダーの説得が欠かせない。ノンコンプライアーばかりでは、政策を全く実施することができないからだ。もっとも重要なことはよりよい政策を実施することであり、いつも正論が必要なわけではない。交渉がこの本の大きな見どころであるが、腹芸?がふんだんに盛り込まれており、しかもそれが必ず勝利につながっていた。もちろん入念な準備を行い、あらゆる交渉事に勝ってゆく姿は感嘆するばかり。
(2)ステークホルダーを説得できた理由の一つは、必要とされ、信頼されているために大統領などから支持があったからであろう。能力はもとより、誠実な人柄や日々のコミュニケーションがあったのだと思う(そのように感じられる描写が少なくない)。行政や人々が解決したい問題だと思っていなければ、コストをかけて現状を変えるインセンティブはないだろう。また、行政改革にはさまざまなリスクや膨大な事務的コストがかかるため、専門家と同じ目線で取り組みたいという気持ちがなければ、やはりどのような提言も受け入れられにくいのだろう。しかし、この本に登場するどのルワンダの人々も想像以上に協力的なのだ(外国人すべてにそうだったのかもしれないけれども、きっと著者は信頼されていたのだろうという記述が最後にある)。
自分の子供に薦めたいと思ったので★4.5。
先行研究の整理
研究をするためには先行研究を大量に読まなければなりません。
しかし、研究は非常に長い期間にわたっていたり、同時並行でいくつもの研究を行ったりするため、読んだ内容を整理しておかないともう一度読みなおさなければならないことが起こります。
そもそも、研究のフェーズが異なると論文の読み方も異なります。まだ始めてもいない研究であれば、私の場合は(テンションの問題で)精読することが困難です。
しかし、何度も大量に読み返す時間も体力もありません。
そこで私はエクセルを使って整理・保存することにしています。
その時のラベルは以下の内容です。
・記入日
・精読
・対象(地域)
・関心(仮説)
・政策的示唆
・Theoretical framework
・Source of variation(因果識別のためのばらつき)
・識別戦略
・識別のときの仮定
・頑健性の確認方法
・Data
・Dataの年代
・Sample size
・Outcomes
・タイトル
・概要
・キーワード(今行っている研究に関連しそうなもの)
これ以外に、最近記録したほうが良いと思っているのが、
・論文の文脈における貢献(なぜこの研究が評価されたのか)
・論文を読んでいて初めて知ったこと・思いついたことなどのメモ
です。
先行研究を整理する手順
一つの研究を行うために、タイトルと雑誌名だけ見て、関連する・読んだほうがよいかも?と思う論文を少なくとも150~200篇くらい集めます。
次に、各ラベルを埋める程度の読み方でざっと読みます。
このときに精読すべきかどうか、引用する可能性があるか、自分がすすめている他の研究で引用するか、学生の研究との関連はあるか、全然関係なかったか、といった印もつけます。学生の研究と関連しそうだなとおもったらすぐさま情報を共有します。
(私はまだうまくできていないのですが、)
たまに見返して、引用する論文だけの表を再構築するとより良いと思います。
ここまでは、精読する前の整理です。
精読した後の整理方法については、まだスキル化できていません。
研究室での先行研究情報の蓄積
今年度から始めるものなのですが、上記のエクセルを研究室内で共有し、それぞれの学生にも論文情報の蓄積を行ってもらおうと考えています。
このとき、エクセルのラベルには新たに
・記入者
を追加します。(あえて分野をいれません。)
これは学生からの希望があったために研究室内で共有することにしたものです。確かに、事前情報があればざっと目を通す際の精度も上がるでしょうし、文献を探しやすくなる気もします。
コロナ禍で、先輩後輩間の情報共有がしにくくなっていますから、クラウドツールを使ってそこらへんの補完できたらと考えています。