大学院進学のための研究計画書の書き方(1)

大学院受験の際には研究計画書の提出を求められます。ここでは、その書き方について私の考えを述べます。

分野によって形式が異なることもあるでしょうから、指導教員から指導を受けられる方は、絶対にそちらを参考にしてください。ここでは、私の学生とか、興味がある方に向けて説明します。
ちなみに、私の専門は、社会科学系の実証研究(統計データを扱う分野)です。

 

研究計画書が必要になる時

 研究計画書は、どのような研究であれ始める前に作成する必要があります。学生だろうと大学教員だろうと研究をする人にはいつでも必要なのです。大学院は研究する人が行くところですから、大学院受験のときに必要な研究計画書というも、研究をはじめる前に作成するものという認識で書く必要がありますし、教員もそのつもりで読むはずです。

 研究室によっては、結局、指導教員が与えるテーマで研究することになることもあるでしょう。そうだとしても、自分が研究を始める準備ができる人であることを示すために質の高い研究計画書を作成する必要があります。

 

研究の例

例を使いならが説明するとわかりやすくなるでしょうから、適当なテーマを作ります。

たとえば、このツイートをもとに(記事の内容をよまずに)研究計画書の例を決めてみたいと思います。

背景(適当):途上国ではしばしば誘拐が起こる。誘拐が頻発すると危険を避けるために先進国からの観光客やビジネス客が減り、経済的損失が発生する。原因を解明することで、効果的な政策・対策を行うことが経済発展に不可欠。

仮説(適当):誘拐は経済状況が悪化した時に起こる。

 

 研究計画書の構造

  1. タイトル
  2. 研究の概要
  3. 研究の背景・目的
  4. 先行研究(研究の背景や研究の貢献に書くことも)
  5. 研究の貢献
  6. 研究の枠組み(理論的予想など)
  7. 分析方法
  8. 期待される成果

研究計画書の構造は決まっており、1000文字程度の計画書であれば、3+5で1段落、6,7,8のそれぞれで1段落の計4段落くらいになるかと思います。この場合であれば、2,4については独立した段落を作らないと思います。もう少し長くなると、2,4を独立させ、research questionに関連する度合いの強い要素を各段落に加筆することになるでしょう。

 

1.タイトル

実証研究には明らかにしたい仮説があります。この仮説やresearch questionをそのままタイトルにするのが多くの場合で良い方法です。タイトルが仮説やresearch questionだと読み手がどのような文脈の研究なのかを容易に想像できるからです。

例えば、上記の仮説の場合であれば、

・途上国の誘拐は、なぜ起こる?

というのがタイトルになり得ます。ですが、これだけだと、どのようなタイプの研究なのかはっきりしません。仮説を検証するタイプの研究なのか、探索的にいろいろ調べて検証すべき仮説を探すタイプの研究なのか、はたまた研究ですらないのか、はっきりさせられるならタイトルの時点ではっきりさせた方がいいでしょう。

考え方としては、結果(誘拐)とそれを引き起こす原因(経済状況の悪化)の両方をタイトルに加えるとぐっと仮説らしくなります。

・途上国における経済状況の悪化が誘拐を増やすのか

何をやるのか、一気にわかりやすくなりました。さあ、もうひと頑張りしましょう。
頑張る方向性としては、結果もしくは原因の範囲をよりはっきりさせることです。
例として、経済状況の悪化とは何か、という点をよりはっきりさせてみましょう。

・途上国における短期的な経済状況の悪化が誘拐を増やすか。

「短期的な」という言葉を経済状況の前につけてみました。実はこれは因果関係を識別する(はっきりさせる)という分析段階の都合の話なのですが、長期的な経済状況の悪化が誘拐を増やしているかどうかをはっきりと示すのは(たぶん)できません。逆に、はっきりと示せるのであれば、「長期的な」と書くことで「え?どうやるの??すごくない?」という気持ちにさせることができますので、その場合は攻めて良いと思います。

一方で、「短期的」であればいろいろと分析方法を想像できます。そもそも途上国の収入は農業や資源の輸出に依存しており、これらは短期的に大きくばらつくことで悪名高いのです。つまり、短期的とかいてあると「天候不順による農業収入の減少なのか、貿易の都合による収入の減少なのかな?」と思いながら読み始められるのです。

 

研究計画の書き方を探して、このサイトにたどり着いた方の大部分は、ここまでやるのは難しいのではないか、と思うのではないでしょうか。その理由は研究の位置づけを明確にできているかどうかが関係しています。タイトルは一番最後に書く、と言われることがありますが、この難しさが理由です。

 

ですから、ひとまず仮のタイトルを決め、ほかの要素を整理した後にまたタイトルに戻ることにして先に進みましょう。

 

今回はひとまずここまでとします。

 

次回、書き方(2)