研究室選択の話

修士課程を学部とは異なる大学で過ごしたいと考える人は少なくないと思います。
ここでは、大学院の研究室選びに関して私見を少し述べてみたいと思います。

ちなみに、私が所属する大学は他大学に進学する学生よりも、他大学から進学してい来る学生の方が多いです。そのような大学ですので、大学院進学者の大部分は学部からそのまま大学院に進学する学生です。そういう意味では、学部の時の研究室選択の参考にもなるかもしれません。


そもそも大学院進学を何のためにするのかというこということが研究室を選択する際に結構重要です。
(1)もう少し勉強したい
(2)良い企業に就職したい
(3)博士号を取得したい
などいろいろあると思います。

学生の側にさまざまな理由があるのと同じように大学の研究室も特徴はさまざまです。


それでは、私が所属するような大学の研究室にはどのような特徴があるのでしょうか。
以下の3つの軸から整理してみます。
軸1:年齢と職階(教授・准教授・助教
軸2:研究スタイル
軸3:人間性

先にこのブログの結論を述べると、自分の目的にあった特徴の研究室を選ぶのが良いということになります。

研究室には特徴によりいくつかのパターンがあるのですが、全パターンに共通して見るべきポイントは、
・過去5年間くらいの間に、個人で、または学生以外の研究者と、研究をしている。(分野による?)
・指導学生の人数が多い
・研究室のHPが更新されている

 です。

 

軸1:年齢と職階

【軸1:パターンA】高齢ではない&職階が高くない(助教

一般に制度上は、この職階の教員は大学院生の指導をできません。
ですがそれはあくまで名目上のことであり、実質的には指導できることがあります。(なんだそりゃ)

制度上指導できないというのは、それだけ「自分の研究に時間を使うように」というプレッシャーがあるということです。
そのため、自分の研究テーマと関係が弱い研究計画を送ってくる学生の指導はなるべく避けたいという気持ちがあります。
一方で、優秀な大学院生が自分と共同研究をしてくれるなら、いろいろな意味で嬉しいので喜んで受入れてくれることでしょう。

ただし、テニュアトラックの教員はかなり余裕がない場合があるので、その研究室の院生などから注意深く情報収集した方がよいです。

テニュアトラックとは、決められた期間内で一定以上の業績を上げることで終身雇用(テニュア獲得済)になる立場のこと


学生から見ているとその教員がテニュアトラックかどうかわかりにくいですが、
助教
・着任後5年以内
の両方を満たしていると、多くの場合でテニュアトラックです。

テニュアトラック中に博士課程の学生を何人も指導している方もいるようですので、
一概に避けるべきというわけでもありません。とにかく注意深く情報収集です。

 

【軸1:パターンB】 中年&教授ではない(准教授、テニュア獲得済助教も?)

研究大学と呼ばれる大学で中年で准教授になっている教員は
研究だけでなく、教育への貢献も少しずつ求められるようになってきます。
充分な人数の学生を抱えているという状況でなければ、
良い研究計画書(!)さえあれば受け入れてくれる可能性は低くないと思います。

私が見える範囲では、アカハラを嫌う世代ですので、相性さえ悪くなければ、
このタイプの教員の研究室が、一番教育効果が高くなると思われます。
博士課程に進学したい場合もこのパターンは悪くありません。
ただし、分野によっては転出(他の大学に異動)の可能性が低くありません。
このリスクを避ける方法は、教員が転出しにくい、より研究環境の良い大学に進学する以外の方法はなさそうです。

 

【軸1:パターンC】教授

教授はとにかく忙しいです。
特に国立大学理系は異常に忙しいのではないでしょうか。
うまく研究室を運営することで教育効果を高めている方もおられますが、
平均的にはパターンBに比べると劣ると思います。
(とにかく教育研究以外の仕事が多いのです。)

 

とはいえ、教育も研究も十分な経験を積まれているでしょうから
意識して避けるほどのこともない気はします。

気にしなければならないのは
第1に、相性
世代的にハラスメントに鈍感な人がいる。どんなに人格的に素晴らしいと私が思っている方でも学生からハラスメント的な言動があるとの噂を聞くことがあります。
第2に、定年までの年数。
多くの場合大丈夫ですが、一番初めに、年齢を確認しておきましょう。
研究室訪問が可能であれば、かるく情報収集をしてみるといいと思います。

 

【軸1:パターンD】高齢&教授でない

このパターンは一番多様です。
一概に言えることはありません。
この研究室の学生さんに話を聞いてみるのがいいでしょう。

 

軸2:研究スタイル

【軸2:パターンA】教員は学生のみとたくさん研究する(よくある)

いわゆるブラック研究室はこのパターンです。
が、ブラック研究室でなければ最高の研究室の可能性もあります。

ブラック研究室については調べれば山ほど情報ができますが、
研究室訪問の際に確認すべき項目があるとすれば
コアタイムが異常に長い
・土曜出勤
・就活をさせない(ゼミ報告優先)
個人的にはどれもとにかくやばいと思います。

・進捗がないと異常に怒られる
・学生同士が異常に仲が良い
もブラック研究室の指標になっているようですが、そうかもしれません。

 

【軸2:パターンB】個人で研究する、または学生以外とも共同研究する

これは、かなりポジティブなシグナルだと思います。
研究をする際に自分で手を動かしている証拠になるからです。


この先生はとにかく研究プロジェクトなどで忙しいでしょうから、
指導を受けるためには、進学後も
積極的にアポイントメントをとる必要があります。
強い心をもって頑張りましょう。

 

【軸2:パターンC】学生との共同研究がない(珍しい)

このパターンは二つの可能性があります。
一つは、放置、
もう一つは、学生の研究を指導するけれども学生の業績にしている、
です。
下のパターンだと最高ですね(ただし、めったにいません)。

少し手間がかかりますが、下のパターンを見つける方法は修了生を探すことです。
卒業生が博士号をとってどこかの大学の教員になっているケースがるはずです。
特にそのような元学生さんは院生時代に学術振興会特別研究員を取っており、指導教員が受け入れ教員になっていたりすることが多いと思います。
そのような学生さんが見つからなければ警戒しましょう。

 

【軸2:パターンD】研究していない(意外?に多い)

研究していない、を見つけるのはそう単純ではありません。

分野によりますが、英語で論文を書くのが標準的な分野の場合に日本語の論文しか書いていなければ、それは研究していないと判断すべきだと思うからです。
その一方で、日本の事例研究が重要な分野であれば、日本語の論文を書くことも重要な貢献になりえます。

見分け方としては、英語の論文を引用しているのであれば、英語で論文を書くべき分野ではないかと思います。

 

英語で論文を書いているとしても、著者として主たる貢献をしていない場合もあります。
一つの判断方法は、第一著者の論文があるのかです。
なければ論文を一人で書けないかもしれません。
著者の順番は多くの分野で貢献順ですが、例えば、アルファベット順の場合はやや複雑です。
論文が掲載された雑誌のSJRスコアを調べて、どれくらいのスコアの雑誌に単独で論文を掲載できるのかを調べるという方があります。
SJRスコアは少なくとも0.5以上ない場合、研究していないとは言いませんが、修士論文の指導でさえかなり怪しいのではないかと思います。
インパクトファクターは分野によって数字の意味が異なりますので一般化できる値は存在しません。できると思っている人は、危ない人なので要注意です。)

 

日本語の論文を書くのが標準的な分野の場合については私はよくわかりません。
が、今後どんどんと衰退する分野が多いのではないかと思いますので、博士課程まで進学するつもりの場合には、そのリスクをとれるかよくよく考えるべきです。

 

軸3:人間性

結局のところ、教員の人間性がよければ自学自習できるかたはどんどん成長できますし、逆であれば、どんなに優秀でも進学しないほうが良かった、ということもありえます。

 

ただ、学生さんが教員の人間性を見抜くのは簡単ではありません。
可能な限り、講義を受けたり、ゼミ生・ゼミ以外の学生から情報を集めてみましょう。
博士号を取りたい場合は、博士課程進学者と取得者の数を見るのも重要でしょう。

 

あと、普通にやるべきだと思うのは、学士課程から研究室を選べる場合、
相性が良くなければ研究室を変更するのは良い選択です。
かなり勇気がいることですが、移籍先の先生とよく相談をすれば、
多くの場合、全く角が立たずに物事が運ぶと思います。

 

また、教員も人間ですので、家庭の事情で余裕がないということも起こり得ます。
あなた自身が「研究を仕上げる」ことに強い執着をもって、指導教員以外の教員のアドバイスも受けながら研究を日々進めることが一番の保険になるでしょう。

 

まとめ

修士課程の研究室選択の話をしてきました。

まとめると、

(1)ブラック研究室はなるべく避けること。つまらないから。情報収集必須。
(2)修士課程後進学する場合は、軸3重視。特にコアタイムはないけれども、学生がもれなく修了できている研究室を選ぶこと。就活に全力で取り組みましょう。
(3)博士号を取得したい場合は、軸1軸2軸3すべて重要です。博士課程は指導教員の力なしにはかなり難しいプロセスだからです。就職は自分で頑張りましょう。

 

良い研究室を選ぶことができても、
あなた自身が研究を進めないなどの問題を抱えていた場合は、
やはり指導教員と良好な関係を築けないかもしれません。

とにかく、自分で研究を進めるということを大前提として、
研究室選びを頑張ってみてください。